2020-11-08

【建物見学】日野市中央図書館の理念 その2


それにしても、不思議な場所でした。

1. 図書館の立地




鳥居???
祠?
んん・・・?
Google mapでも、どうも細い道があるようなんですが、よくわからない・・・汗

と、現地行って納得。
東京都下で住んでたら聞いたことがあるかもしれないのですが・・・
この急な崖は「国分寺崖線」というヤツです。(いや、知らんでいい
多摩川が武蔵野台地を削った時にできた崖、だったと思いますが、その崖に沿って湧き水が多いんですよね。
ここも、ご多分に漏れず。

鳥居の先に図書館・・・!?
その理由は、『移動図書館ひまわり号 前川 恒雄著』にありました。
  • 従来の図書館は文教地区、公園などに建設された
  • ふらりと寄れるところがいいという流れがあった
  • 移動図書館のサービスが認知され波に乗ってきて、すでに分館が2つ建っていたが、中央図書館の建設の話が持ち上がった(初代館長ご本人いわく時期尚早!?と思っていたそうです)
  • 中央図書館建設の候補地は、豊田南土地区画整理事業が施行中の一角
  • 元神社の境内
おおおー
そうなんですね。

都市計画的にも、都市公園法に建てて良い建物というか、「公園施設」の中に建てられる建物の用途が決まってるんですが・・・
(都市公園法第2条第2項第6号、同施行令第5条5項1号に図書館ってあります。)

候補に上がったのは、区画整理の施行中の土地で、元神社の境内だったとのことなんです!!!
面白いですねー
これで、国分寺崖線の下の鳥居の謎が解けました。笑

建物は崖に向いてL字に建っていて、
よく手入れされた庭というか元境内?でしたが、欅がたくさん生えていて、木漏れ日がものすごく気持ちよさそうでした。

鳥居側から階段を上がったところ
正面が児童用、右側(南面)が成人用閲覧室

図書館と庭、国分寺崖線(右側)

玄関側から



map だと平面でわからないですね・・・
日野市の街自体も、水路があちこち走っていて、すてきなところでした。



2.  設計者が選定されるまで

前川恒雄初代館長が、イギリス滞在時に視察したイギリスの公共図書館の理念やサービスと比べて、当時の日本の図書館の理念やサービス、利用のされ方に疑問を呈して作ったのが、この図書館。

市長を説得し、土地を得たと。
それから、前川初代館長がしたのは、図書館の理念を建物に反映させること。
その1の方にも書きましたが、復習。
移動図書館ひまわり号 前川 恒雄著」p182より...
  1. 新しい図書館サービスを形で表す
  2. 親しみやすく、入りやすい
  3. 利用しやすく、働きやすい
  4. 図書館の発展、利用の変化に対応できる
  5. 歳月を経るほど美しくなる

当初、2,500㎡ほどの規模で計画したらしいんですが、市の内部の方に大きすぎる!と反対されたとw
しかし、それでもへこたれず・・・
市長と直接かけあうことになり・・・
2,200㎡でどうか、ということで、まとまったそうです・・・

それから、当時横国大の計画学?だった佐藤仁教授に紹介して頂いて、設計者鬼頭梓氏と会うことになったとか。
鬼頭梓氏は、前川國男事務所での図書館設計担当であり、国分寺にある東京経済大学の図書館を設計していたので、白羽の矢が立ったそうです。

ここから鬼頭梓氏の、図書館建築家としての人生が始まった、ということらしいです。
ものすごい縁ですね・・・



3. 建物内の配置と特徴

図書館とは建物ではなく 貸出しサービスの全システムをいう (日野市立中央図書館〔設計・鬼頭梓建築設計事務所〕)
ネットで検索していたら、ひっかかったものです。
新建築に寄稿された前川 恒雄初代館長の文のようですが・・・
会社の図書館が利用不可なので、どこかで探して読みたいと思います・・・汗

この左の賞?というか、記念碑的なサイン?ですが、この建物はDOCOMOMO Japanに選出されてます。

そして、
右側に、室の配置計画が見えますでしょうか?
ちょっと見にくいかな・・・どれがL字?って感じですかね。

実は、図書館にあった建築系の書籍から図面をコピーしてきたんですが、私としたことが、その書籍の名前を控えるのを失念・・・
設計資料集成の古い版だと思うんですが・・・
ここに引用するのはやめておきます・・・ザンネン

ともあれ。

1階
  • 利用者用:L型ワンルームの閲覧室(受付カウンター、成人用と児童用の閲覧室、窓際に閲覧席)
  • 共有:玄関、玄関ホール、トイレ、利用者用階段
  • 管理:貸出事務、管理者用階段とEV
2階
  • 利用者用:レファレンス室(受付カウンター、開架書棚、レファレンス用席)、集会室
  • 共有:2階ホール(郷土資料展示)、利用者用階段
  • 管理者:一般事務・整理事務、応接室、男女ロッカー、職員休憩室・トイレ、倉庫、管理者用階段とEV
地下1階
  • 管理者用:書庫、機械室、ブックモビール書庫、管理室・準備室・暗室、倉庫、管理者用階段とEV
建設当初の図面を見ながら、室名をピックアップしたら、こんな感じです。
近年、増築があったようなので、竣工当時と変わってる部分もあるかも?


一方、R02年学科【計画】で問われたキーワードですが・・・
  1. 成人開架と児童開架をL字型平面に振り分ける
  2. 自習室を設けない
  3. 貸出を重視

1については、
前川初代館長ご著書によるとお父さんお母さんにつれてきてもらって、一緒のフロアになんとなくお互いに気配を感じながら居るってことが大事、ということだそうです。

ワンフロアの閲覧室で、受付カウンターを中心に「左右に成人閲覧室と児童閲覧室を振り分ける」みたいな配置計画は一般的な図書館によくあるんですが、もしかしてここが元祖っですかね!?

入ってすぐに新聞・雑誌・コピー機・検索用PCなんかも、入ってすぐにありました。
ちょっと興奮しますねw
この図書館が建つまで、こういった閲覧室内の配置計画がなかったのかもしれない!?と思うとなおさらです。


2については、
なぜ自習室がダメなのか?と不思議でしたが、当時閲覧席を占めていたのは受験生ばかりで、彼らは受験勉強しかしてない上に本を読まない、ということだったそうなのです。
開館以降しばらく、自習室がないことについて、当の受験生から相当な反発があったそうで・・・(想像がつきますね)笑
一人ひとり、この中央図書館の理念を説明して、納得していただいたと。
これまたご著書にありました。

一方で、2階にあるレファレンス室は、入り口入ってすぐにレファレンスカウンターがあって、司書さんがにこやかに挨拶してくださって。
部屋にはしっかりとした(?)閲覧机と椅子、そして取り囲むように書棚が。
座ってらっしゃるみなさんの机の上を、ざっと拝見しましたが、机にて参考書を広げてる受験生風の方はいらっしゃいませんでした。笑
私も、この図書館の生い立ちについては、下の閲覧室でなくて、2階のレファレンス室にて質問すればよかったなとw
(貸出し対応されてた司書さんのお手間をとらせてしまいましたので)


3については、
この記事を書いている時点で、1973年(昭和48年)建設当時と比べて、図書館を巡る環境が相当変わっています。
私の中で、この図書館の特徴が「貸出し重視」と言われてもピンとこない理由が、「図書館のサービスが、当時と今で相当違っているせいである」ということが、行ってみて、調べてみてやっとわかりました。

その1の記事で、建設当時の時代背景を書きましたが、
当時「館内のみの閲覧サービス」に限っていて「積極的に館外貸出しをしていなかった図書館サービス」に、風穴を開ける意味での「貸出し重視」だったんですね。

今は、図書館の『館外』貸出しサービスがあまりに普通というか、あまりに当たり前になりすぎているようで・・・汗
それで、なぜあえて「貸出し重視?」と疑問に思うまでになっている、ということだったようです。笑
この日野市中央図書館の改革(?)があったおかげで、「(館外)貸出しサービス」なんて当たり前なんじゃないのー?って思うくらい、一般化した概念になった、ということなんですね。
この3番目の「貸出し重視」の背景と意図を知って、なるほどーーー!納得ーーー!でした!


ちなみに、
国会図書館や、東京都立中央図書館、↓最近建て変わった都立多摩図書館は、確かに個人への貸出しはしていないんです。


貸出しを重視しない(?)図書館って、「図書館が開いている時間に行って、荷物を預けて入り、見たい資料を探しその場で閲覧する」っていう利用の仕方になるのですが、
その広域図書館という分類になるのかわかりませんが、都道府県立レベルの図書館と市レベルの図書館の役割の違いが、ようやくイメージがつきました。



4. まとめ

図書館って、地域、地域の特色が出るんだなーと思います。
しかも、今回の場合は、初代図書館館長=お施主様、の強い思いあってこその建物になっていて、建築家はまさにその欲するところを空間化した人、と言えます。

現在、日野市中央図書館は、改修計画が建ってるそうですが、市民からは、もう少し図書館に長居できるスペースがほしいという意見が出ているようで、カフェコーナー的なものが予定されているようです。
TSUTAYA図書館とか、スタバのある図書館とか大流行ですからね・・・苦笑

確かに、近所は住宅街で、近くにカフェなかったですし、元境内?なのか、敷地内のお庭なのか?にテーブルと椅子出して、欅の木陰で本読めたりしたら、最高だなーと思います。

最近の図書館の流れは、人を呼ぶ施設(?)だったり、生涯学習支援、地域交流施設として、いろんな形に展開しているので、日野市中央図書館の今後の展開が楽しみです。


とても充実した建物見学となりました。
建築を学ぶ上で、どなたかのご参考になればと思います。

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